(76)新刊書 私の拾い読み 「鶏舎建設へ」 ▼出版社との各連絡(+追記)

2020年07月22日

(77)私の拾い読み 「最初の棲家」

 おそらく家賃なるものを払って暮らすのは、教師を辞めて以降のそれこそ25年ぶりだった。そしてその厳しい現実にたちまちぶつかる。〈村〉からの援助金も切れかかった頃だろうか?

〈「家賃以外に月々共用費を二千円ほどいただかんとな」
 家主のおばさんのいささかあけすけな言い分に、私は立ち往生する。このあたりは雑然とした住宅地でわきに野菜畑がある農家風の家、その門柱を挟んで二人は向き合っていた。普通は銀行か郵便局の引き落としなのだろうが、ここは珍しく家賃四万円を月末直接家主のもとへ持参していた。それだけここは街なかでも場末で、元農家が多かった田舎の気風が残っているのかもしれない。私は当然無理だと断わろうとしたが、その口実に戸惑った。
「畜産業というか、いま養鶏というのは左前でしょう。それでリストラで辞めちゃったんですよ。退職金はないし、いまの警備員の稼ぎじゃ手取り十三万程ですわ。それでなんとか〉

 
 そのおばさんは「そりゃあたいへんや、ほんなら一年待とうか」と頷いたばかりか、「あんたもまだ若そうやから、もっと稼ぎのええとこないの」と気にかけてくれたのである。「あそこのマンション管理員さんはだいぶんよぼよぼやけどなあ」とか。

 それからそのおばさんと相談したのは、2階に住んだので階下の騒音のことだった。

〈私はその時は勤務に出ていて知らなかったが、靖代の訴えによると土曜夜か日曜朝が特にひどいという。子どもたちの喚声とバタンドタンという騒音が立て続けに聞こえる。夜が遅くて寝足りない靖代と娘はたまりかねてうるさいと怒鳴りながら畳をドンドン叩くまでになった。それが伝わったか下は一瞬静かになったが、それも長くは続かなかった。何とかならないかと家主のおばさんに訊くと、おばさんは首をすくめながら言った。
「あそこは土曜からお父ちゃんが帰ってきとるんよ。それも噂ではどうも偽装離婚やねん。母子家庭の生活保護に子ども四人の児童手当がまるまる手に入るやんか。子どもらは嬉しうてはしゃぐんやが相当うるさいやろなあ」〉

〈そのことへの怒りは特になかったが、そんなことがあるんだ、という発見の驚きがあった。肝心の下の家へは「わしの方からよう言うとくわ」とおばさんは請け負った。私に残されたのは新鮮な発見だった。理念などという支えがなくとも、家主のおばさんもそれなりに人情を備え、階下の若い主婦もいわば堂々と生きているのである。〉

 私の方は実は週1そこで寝たが、他の日はずっと職業訓練校の宿直員だったから妻や娘のような実感はない。それでもそこで1年以上は暮らしたろうか。




okkai335 at 05:18│Comments(0)

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