ブログ小説連載予定米俵も土俵に(2)

2020年11月03日

米俵も土俵に(1)

【ご参考までに】

読書スタイルは千差万別です。一応新聞小説の例では通例ざっと11000字。私の今回の小説は1回分1ぺージの1360字(34行×40列)の予定です。したがって自分のペースでまとめ読みも可能です。しかしその間隔はどうしても私の都合になりますのでご容赦を。

 

 

 

 

(一)新配置

 

なんと雑然とせせこましいところだろう。北海道別海の風景に見慣れた私の目にはそう映った。ここ顕現地本部のある三重県里郷は都市郊外で、周囲は田畑や農家、住宅地に囲まれ、片側には建設中の高速道路が走っていた。顕現地は少し小高い丘の上に展開し、中央部にはトタン屋根にトタン壁のバラック造りで、高さ不ぞろいな建物がいくつか密集していた。いかにもすべてが建設途上にあるという雰囲気だった。あとで案内されて分かったが、そこは事務所に、食堂・厨房、洗濯場・お風呂など生活施設だった。その右手に同じくトタン屋根、かまぼこ型の建物数棟が見えたが、これは宿舎だった。その少し奥に幼児舎があり、さらに傾斜地を下りた外れには学育舎があった。人は多く賑やかで活気に満ちているようであった。別海に比べ若者が多く、話し声は圧倒的に関西弁が多かった。

生活施設の南はずれには幾分整然とした十棟ばかりのトタン屋根の建物が見えた。これはきっと鶏舎であろう。その鶏舎脇には飼料配合所やダストと呼ばれる餌用の魚肉を加熱処理する所があった。生活空間には別海のサイレージの臭いとはちがった異臭が漂っていたが、それはここの釜から発する物らしい。そういえばここは農場というよりも全体として工場に近い印象だった。

 

正式職場配置が決まるまでさしあたり私は配合所に、妻の多希子は洗濯場に通った。雄大は学育から小学校へ、多佳は多希子に連れられて幼児舎に通った。ともかく別海に比べ移動距離は短かった。子どもらも特に何の問題もなく、中に入っていったようである。

配合所では細川という三十過ぎの男が受け入れた。吹き抜けの高い作業所の左手に二基の釜が回転し、その右手上に当たる二階部分から各種の餌材料を落としこんだ。そこにはふすま、とうもろこしなどの原料となる飼料袋が20キロ詰めから巨大なバッグ詰めまで、びっしり積み上げられていた。そこから鉄梯子で上り下りする細川は軽快で、粉の付着した長脚絆の地下足袋がいかにも似合っていた。適当な回転時間を経て出来上がった餌は釜から下の秤の上に置かれた袋に排出された。



okkai335 at 01:19│Comments(0)

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